コラム
不動産活用による節税戦略解説
不動産の活用は、資産を守り、育てるための非常に強力な「節税ツール」となります。しかし、その仕組みは複雑で、一歩間違えるとキャッシュフローが悪化するリスクもはらんでいます。
本コラムでは、不動産を活用した節税の主要なメカニズムとその戦略について、初心者の方にも分かりやすく解説します。
1.相続税対策:現金よりも不動産が有利な理由
相続税対策において不動産が選ばれる最大の理由は、「時価(市場価格)」と「評価額(税金の計算基準)」の差にあります。
現金1億円を相続する場合、その評価額はそのまま1億円です。しかし、1億円で不動産を購入した場合、相続税評価額は以下のように圧縮されるのが一般的です。
- 土地: 公示価格の約80%(路線価方式)
- 建物: 建築費の約60%(固定資産税評価額)
さらに、その不動産を賃貸(アパート経営など)に出している場合、借家権割合などが差し引かれるため、実勢価格の2割〜3割程度まで評価額を下げられるケースもあります。
小規模宅地等の特例の活用
亡くなった方の自宅や事業用の土地を相続する場合、一定の要件を満たせば、土地の評価額を最大80%減額できる「小規模宅地等の特例」が適用できます。これは数ある節税策の中でも非常に強力な制度です。
2.所得税・住民税対策:減価償却という魔法
不動産所得の計算において、最も重要なキーワードが「減価償却(げんかしょうきゃく)」です。
減価償却とは、建物の購入費用を耐用年数に応じて分割し、毎年の経費として計上することです。
- 帳簿上の赤字: 実際には現金の支出がないにもかかわらず、減価償却費を計上することで、会計上の利益を低く抑える(あるいは赤字にする)ことができます。
- 損益通算(そんえきつうさん): 不動産所得で出た赤字を、給与所得など他の所得から差し引くことができます。これにより、課税所得が減り、所得税の還付や住民税の軽減に繋がります。
3.法人化による節税:所得の分散と税率差
不動産収入が増えてきた場合、個人ではなく「資産管理法人」を設立して不動産を所有・管理する手法も有効です。
- 税率の差: 個人の所得税(最高55%:住民税含む)に比べ、法人税の実効税率は約30%前後と一定です。高所得者ほど法人化のメリットが大きくなります。
- 経費の幅: 法人の場合、役員報酬の支払いや退職金の積み立て、生命保険料の活用など、個人よりも経費として認められる範囲が広がります。
- 所得の分散: 家族を法人の役員にすることで所得を分散し、世帯全体の税負担を軽減できます。
- 注意すべきリスクと落とし穴
「節税」ばかりに目を向けると、投資としての本質を見失うリスクがあります。
- デッドクロス(Dead Cross): ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態になると、手元に現金がないのに多額の税金がかかるようになります。
- 流動性の低さ: 不動産は現金化するのに時間がかかります。相続税の納税資金をすべて不動産にしてしまうと、納税のために不動産を叩き売りする事態になりかねません。
- 空室リスク: 節税のためにアパートを建てても、入居者が入らなければローンの返済が重くのしかかります。
まとめ:出口戦略を見据えた計画を
不動産による節税は、単なる税金対策ではなく、「資産全体のポートフォリオ管理」の一環です。
2026年現在の税制や社会情勢を鑑みると、闇雲に物件を買うのではなく、物件の収益性と将来の出口(売却か承継か)を冷静にシミュレーションすることが、真の「賢い節税」への第一歩となります。
不動産投資を進める中で、多くの方が直面するのが「いつ法人化すべきか?」という悩みです。
一般的に、法人化を検討すべき「年収ライン(所得ライン)」は800万円〜1,000万円と言われています。しかし、この数字は単純な「売上」ではなく、「課税される所得(利益)」を指します。
なぜこのラインなのか、そして具体的なメリット・デメリットはどう変わるのか、詳細に解説します。
1.なぜ「800万円〜1,000万円」がボーダーなのか?
最大の理由は、「個人の所得税率」と「法人の実効税率」が逆転するポイントだからです。
個人の所得税(累進課税)
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」です。
住民税(一律10%)を加えると、課税所得が900万円を超えたあたりから、税率は43%(所得税33%+住民税10%)に跳ね上がります。
法人の税率
一方で、資本金1億円以下の中小法人の場合、法人税率は非常にシンプルです。
- 所得800万円以下の部分: 約21%〜25%(実効税率)
- 所得800万円超の部分: 約33%〜34%(実効税率)
つまり、個人の所得が900万円を超えて43%の税率を払うよりも、法人として約21%〜34%の税率で抑える方が、手元に残る現金(キャッシュフロー)が多くなるのです。
2.法人化による「3つの節税レバー」
単に税率が低いだけでなく、法人には「所得をコントロールする」ための仕組みが備わっています。
① 所得の分散(家族への給与)
自分一人の所得として受け取ると高い税率が適用されますが、家族を役員にして報酬を分散させることで、世帯全体の税率を下げることができます。
例: 1,200万円の利益を一人で受取るより、夫婦で600万円ずつ受取る方が、それぞれに低い税率が適用され、さらに「給与所得控除」も2人分使えます。
② 給与所得控除の活用
不動産所得(個人)には「経費」しか認められませんが、法人から自分に給与を支払うと、「給与所得控除」という概算経費が認められます。これにより、二重に所得を圧縮できます。
③ 経費の範囲が広い
法人の場合、生命保険料、役員社宅の家賃(自宅を法人名義で借りる)、出張手当、退職金の積み立て(経営セーフティ共済など)など、個人事業主では認められない範囲まで経費化が可能です。
3.法人化の「隠れたコスト」と注意点
節税メリットがある一方で、法人化には特有のコストが発生します。これらを差し引いても利益が出るかが判断基準です。
| 項目 | 内容 | 目安コスト |
| 設立費用 | 株式会社や合同会社の登記費用 | 約10万〜30万円(初回のみ) |
| 維持費用(均等割) | 赤字でも毎年かかる法人住民税 | 年間約7万円 |
| 税理士報酬 | 法人決算は複雑なため専門家が必要 | 年間約30万〜50万円 |
| 社会保険料 | 役員報酬を出す場合、加入が義務 | 給与額の約15%(会社負担分) |
4.チェックリスト:あなたは法人化すべき?
以下の条件に2つ以上当てはまるなら、シミュレーションを開始するタイミングです。
- [ ] 本業(給与)と不動産所得の合計が900万円を超えそうである
- [ ] 今後も物件を買い増し、事業を拡大する意思がある
- [ ] 家族に所得を分散して、将来の相続対策も並行したい
- [ ] 帳簿上の赤字を10年間繰り越したい(個人は3年)
結論:出口戦略には要注意
一つだけ注意が必要なのが「売却(出口)」です。
個人で5年超保有した不動産を売却する場合、税率は約20%と非常に低く抑えられます。しかし、法人の場合は売却益も通常の法人所得として合算されるため、約34%の税金がかかります。
「ずっと持ち続ける(インカムゲイン重視)」なら法人、「短期で転売して利益を出す(キャピタルゲイン重視)」なら個人が有利になるケースが多いことを覚えておいてください。


